先日、京都のとある旅館にて竹垣をつくる仕事がありました。
つくる竹垣は光悦寺垣。
京都の光悦寺に本歌があり、臥牛垣(がぎゅうがき)とも呼ばれています。
作業工程的に現場ではなく会社で作成し、完成品を持っていって設置する段取りになっていたので、竹好きを自負する私が通常業務後に一人でコツコツと作ってみることに。
光悦寺垣は玉縁と呼ばれる上段の竹の柔らかな曲線美と、整然と菱形に組まれた組子の対比が魅力で、庭師としてぜひつくってみたい竹垣の一つでした。
そんな憧れと同時に、難解そうな構造からくる不安が拭えませんでしたが、意を決して挑戦した様子を記事にしていきます。
親方からおおよその寸法とイメージを教えてもらいました。
つくり方等はあえて聞かず、本やネットの情報を参考に自分の頭で考えてつくります。
まずは柱の下地を作成します。
柱の下地にする竹を節止めにし、全ての節をカンナで削ります。
節止めとは竹の節の真上で切ることで節を残し、竹の中に雨水が入らないようにする約束事の一つです。節止めをすることで腐り難くなります。
カンナで節を削るのは、後々この下地竹に細く割った綺麗な竹を巻き付けていくからです。下地の節を削っておかないと綺麗に巻けません。
竹を扱った経験のない方にはハテナかもしれませんが、後々わかってくると思います。
柱の下地の上部に、玉縁を結合するための穴を空けます。
玉縁の下地に使う竹を実際に通して、入ることを確認。
そうしたら次は玉縁の下地をつくっていきます。
まず柱同様節を全て削り、組子をはめる為の溝を空けます。
そして、竹を曲げるためにV字の切り込みを入れていきます。
あばらみたいで綺麗ですね。
この切れ込みの間隔や深さによって竹の曲がりが変わっていきます。
今回は初めてのこともあって、等間隔に切れ込みを入れていきましたが、自分の理想の曲がりを追及するためにも奥の深い作業です。
さて、無事に連結できました。
柱の下地と玉縁の下地、それから下の受け竹も結合しました。
柱と受け竹にも、組子をはめる為の溝を切っています。
これで下地の完成です。
なんだか形になってきてわくわくしますね。
そうしたら今度は組子を取り付けていきます。
竹を割り、両面に竹の緑が見えるよう2枚を重ね合わせて等間隔にはめこみます。
きれいな菱形になるよう調整しながら取り付け、番線で止めていきます。
このとき、右斜めに上がっている組子を表にするのが約束事です。
着物などをみても分かるように、正面からみると右斜めの衿が前に来るのが決まっています。
反対に死に装束では左が前という決まりがあり、死人の竹垣になってしまわないためにも右前で取り付けていきます。
組子の完成です。
こうしてみると滅茶苦茶写真暗いですね。
確かこのときは23時を過ぎていたと思いますが、組子が綺麗に揃っていく様は疲れも気にならないくらい楽しかったです。
簡単に組子を取り付けているように見えるかもしれませんが、実際は竹の裏の白い部分が見えないように1枚ずつ削っています。
ある程度削らないとうまく2枚が合わさらないのです。
こういう細かい作業が作品の仕上がりを大きく左右します。
さて、下地と組子が出来上がったところでお次は化粧竹を下地の竹に巻き付けます。
化粧竹は綺麗に洗う必要がある為、しっかりと竹の汚れを落とします。
あまり擦り過ぎると竹の変色が早くなってしまうためこの加減が難しい所です。
玉縁と柱、両方化粧竹を巻きますが、まずは玉縁の化粧だけをつくります。
さあここからが庭師の腕の見せどころ。
光悦寺垣を作るうえでの難関ともいわれる竹の細割です。
下地の竹に化粧竹を巻き付けるには縦に細かく裂く必要があるのです。
まず、先ほど洗った竹を8つに割り、節を落とし、それぞれを更に半分に。16等分します。
16等分すると1本2cm前後となりました。
全ての竹をうまく同じ幅で割っていくのが綺麗に巻きつけるポイントです。
その竹をそれぞれさらに半分に裂いていきます・・・。32等分です。
そしてさらにまた半分に・・・。64等分です!
その幅約4〜5mm。
ちなみ一本でも変に裂けてしまうと、巻き付けた時にそこだけ穴が開いてしまうため絶対に失敗できない作業なのです。
竹を捌く技術と集中力が試されます。
無事細割完了です。
なぜこんなに細く割るかというと、4〜5mm程度にしないとカーブがきつい所ではうまく竹が曲がってくれないからです。
なのでそんなにカーブがきつくない竹垣を作る場合にはこんなに細くする必要はありません。
最終的に自分の割りたい細さから逆算して、竹を割っていきましょう。
竹を割るときにあらかじめ数字を書いておくのも重要です。
バラバラに巻きつけても綺麗には見えません。
まるで細割りしたことを悟られない一本の竹に見せるためには、ちゃんと元通り組み立てていく必要があります。
細割が出来たら、玉縁の下地に番線で仮止めしていきます。
正直、1人で作成するにあたって細割よりもこの巻き付ける作業が一番大変だったかもしれません。
竹がうまくまとまらず言うこと聞いてくれないので、片方の手で竹を抑えもう片方の手で番線をねじるのにかなり苦戦しました。
この作業に限っては私みたいに意地にならず、誰かに手伝ってもらうのがいいと思います。笑
番線である程度仮止めが出来たら、銅線でしっかりと止めていきます。
ご覧のように玉縁がカーブする部分は節が綺麗な模様を描きます。
美しい。これを見るだけでも細割した努力が報われます。
写真を撮るのを忘れていたためかなり省略しましたが、柱にも同様に化粧竹を巻きつけていきます。
柱は曲がりがないため、細く割る必要はありません。
もう間もなく完成です!
仕上げにシュロ縄で化粧結びをしていきます。
化粧結びには特に決まりはないので、自分の感性のままに好きなように結んでみて、親方やお客様に注意されたら直しましょう。笑
さりげない場所にトンボ結び。
隠れミッキーみたいに見つけたときの喜びは計り知れないはずです。笑
完成です!!
玉縁の結びは私が憧れている庭師さんのものを勝手にパクらせていただきました。陰ながらいつも応援しています。
あとは現場合わせで足元を数10cm切れば据え付けられます。
この竹垣が旅館の庭にどう溶け込むのか、楽しみで仕方ありません。
以上、光悦寺垣のつくり方でした。
記事ではわりとすんなりつくっているように見えるかもしれませんが、途中かなり失敗しています。
V字の切れ込みを入れた竹も、一度割れて全てがパーになったときは本気で泣きました。
その後泣きながら竹やぶを駆け巡ったのは今ではいい思い出です。
やる気、諦めない心、チャレンジ精神。キラキラしすぎてあまり好きな言葉たちではありませんが、そういった類のものがあれば私みたいな駆け出しの庭師でもつくれる代物なので、ぜひ若い庭師の皆さん、挑戦してみてください。
なにか助けになりそうなものとして、泣きじゃくる私を竹やぶへ走らせた曲を置いておきます。
『そこから一歩も動かないのなら 君は「侮辱された人間だ」
そこから一歩 歩き出せたら 君は「負けなかった人間だ」』
『怖いとは言うべきじゃないな 辛いとは言うべきじゃないな
どうせ誰も助けてくれない それを分かって始めたんだろう』
最高の応援歌ですね。
そしてなにより、この光悦寺垣はまだ私のものではありません。
確かに作ったのは私ですが、見本通りにつくったまでにすぎないので私の本当の作品とはいえません。
ここから自分なりに試行錯誤して、本当に自分の納得いくものを作っていけたらと思います。
最後に一言、竹の仕事って本当に楽しい!
記事・・・飛田亮