例えば京都や金沢など、和の景観が色濃く残る地を訪れたとします。
皆さんはそこでなにを目にしたとき、もっとも伝統美を感じますか?
町屋などの伝統建築や迫力のある鬼瓦、着物に下駄を履いて歩く人々や石畳の小路など人それぞれだと思いますが、私は中でも特に「竹」に強く心惹かれます。
青々とした竹が植えられた日本庭園や街道はもとより、竹が巧妙に取り入れてある日本建築や空間を仕切る竹垣、緻密な竹細工が並べてある土産屋が私は大好きです。
竹はアジアの温帯・熱帯地域に多く自生するためアジア諸国の人々の生活と密接な関わりがあることで知られていますが、中でも日本では身近な竹を活用した独自の文化を発展させてきました。
その代表的な作品がさまざまな趣向を凝らした竹垣といえるでしょう。
諸外国では頑丈な石や木で境界をつくる文化が一般的ですが、日本では軽くしなやかな竹を使い多種多様な形式の垣根をつくってきた歴史があります。
竹垣には大きく分けて2種類存在し、空間を仕切る為の「透かし垣」と目隠しにつかう「遮蔽垣」がありますが、今回はそんな竹垣の中から定番の竹垣5種と変わり種の5種、合わせて10種を紹介していきます。
四ツ目垣(よつめがき)
出典:http://www.yokotake.co.jp/pages/yotsumegaki002.htm
古くから広く用いられてきた透かし垣の代表格です。
マダケを縦横に組むだけの簡単な作りですが、そのシンプルさゆえに美しく見せるには難しいです。
細竹で2本使いにしたり、立子の高さを変えたりとバリエーションに富んでいます。
建仁寺垣(けんにんじがき)
出典:http://www.bamboo-aichi.com/stylish_use/index.html
四ツ目垣が透かし垣の代表格なら、建仁寺垣はもっとも一般的な遮蔽垣といえます。
割り竹の立子を押し縁でおさえた作りで、等間隔にシュロ縄で結束していきます。
整然と並んだ割り竹と結束のアクセントが美しい遮蔽垣の王道です。
金閣寺垣(きんかくじがき)
出典:http://www.yokotake.co.jp/pages/kinkakujigaki002.htm
四ツ目垣の応用ともいえる透かし垣の一種で、京都の金閣寺に代表される竹垣です。
頭には玉縁といわれる半割りの竹を笠のように被せ、背丈が低く作られることが多いことからどこか可愛らしい雰囲気があります。
御簾垣(みすがき)
出典:http://www.yokotake.co.jp/pages/misugaki001.htm
細い丸竹を横に積み上げ、縦に押し縁でおさえる遮蔽垣の一種です。
まるで大きなすだれのような外観をしているので御簾垣と名付けられました。
歴史ある日本庭園よりも住宅地でよく目にすることから、最近でもよく作られる人気の竹垣のひとつです。
桂垣(かつらがき)
出典:http://www.panoramio.com/photo/121832789
日本庭園の至高と呼ばれる京都の桂離宮に代表する遮蔽垣です。
竹穂垣の一種でもあり、竹の小枝を密に横向きに並べ縦使いの太い押し縁で抑えます。
押し縁の上部の突き出しが斜めにカットされるのも特徴的です。
竹穂の向きが整然と揃えられているものは独特な模様を描き非常に美しいです。
蓑垣(みのがき)
出典:http://woman.excite.co.jp/blog/sanpo/sid_2430314/
ここからは少し変わった竹垣たちを紹介します。
蓑垣は遮蔽垣の一種で、竹穂を下向きにかきつけることでまるで蓑そっくりに仕上がる素朴で自然味溢れる竹垣です。
何段かに竹穂を切りそろえたものは鎧垣とも呼ばれます。
松明垣(たいまつがき)
出典:http://www.bamboo-aichi.com/stylish_use/index.html
割竹を一定の太さに束ね立子とする、重厚感と気品を感じさせる竹垣です。
束ねられた割竹が松明のように見えるために名付けられました。
割竹の代わりに竹穂、ハギやクロモジの枝で作られる場合もあります。
網代垣(あじろがき)
出典:http://blog.livedoor.jp/chuoko_blog_02/archives/2008-09.html
遮蔽垣の一種で、割竹を編み上げた竹垣です。
竹のしなやかさと網目の美しさが特徴的です。
網代垣の種類には、斜めに編み上げた沼津垣や縦横に編み上げた大津垣などがあります。
写真は沼津垣です。
九頭竜垣(くずりゅうがき)
出典:http://store.shopping.yahoo.co.jp/i-port-shop/taka-kzo-10.html
透かし垣の一種で、京都の光悦寺に代表される光悦寺垣の応用といえます。
まず柱がないことが特徴で、玉縁の丸竹を細割りすることで竹のしなやかさを最大限に引き出し、両端を地面に付けることでゆるやかな曲線美を生み出します。
光悦寺垣は玉縁の片方しか地面に着かないことに違いがあります。
創作垣(そうさくがき)
これらの竹垣の伝統美を踏まえ、現代の新たな竹垣の境地を開かんとするものを創作垣と呼びます。
写真は私も研修に参加し作らせていただいた臥龍垣(がりゅうがき)です。
九頭竜垣の応用形ともいえ、さらに竹のもつしなやかさを強調した作品です。
乱れ組子も迫力があり、まさに地に臥す龍が如しですね。
以上、ほんの一部に過ぎませんが日本が誇る伝統美・竹垣を紹介してきました。
竹垣を作る機会が減っているだけに、見る機会もあまりなくなってしまうかもしれませんが、ぜひ意識してみてください。
日本の手間ひまの文化や境界に対する古き良き日本人の類まれなる感覚がそこには息づいています。
そして庭師たるものいつかはオリジナルの創作垣を作ってみたいものですね。
記事・・・飛田亮