今、巷を賑わせている「世界一のクリスマスツリーPROJECT」。
TVニュースなどでも取り上げられていることからご存知の方も多いでしょうがざっと説明をば。
この企画は世界を股に活躍するプラントハンターの西畠清順さんが仕掛け人で、神戸開港150年記念関連事業として高さ30mの世界一大きなクリスマスツリーを神戸港に立てるというもの。
この木は富山県氷見市の森の中から掘り取られ、大きな特殊車両と船によって神戸メリケンパークに輸送されます。
世界一のクリスマスツリーが見れるというワクワク感もある反面、「生きてる木を掘り起こすのは可愛そう」だとか「単なる人間のエゴ」などの批判も相次ぎ、一時は炎上騒ぎになりました。
私も常日頃植物に携わる身としてこの件には関心を寄せていて、今回たまたま訪れる機会があったので現地で見聞きし感じたことを記事にしようと思いました。
同じ植物を扱う庭師の目線で、この企画が本当に伝えたかったことはなにか?その本質を考えていきます。
世界一のクリスマスツリーを見に行ってみた
やってきました神戸メリケンパーク。
この時期は美しいイルミネーションで有名な神戸ルミナリエも開催しているので、神戸中が大賑わいです。
クリスマスツリーへ向かう手前にはエアープランツのトンネルが出来ていました。
この大量の植物の名はチランジア・ウスネオイデス。中南米原産のエアープランツです。
原産地では雑草のようにどこでも自生していることから身近な存在として親しまれています。
西畠さんの話によれば、中南米ではクリスマスの時期になると聖域とされる場所にこの植物を敷き詰めるのだそう。
世界を旅した経験から、この発想が生まれたのですね。
そしてこちらが世界一のクリスマスツリー。
さすが樹高30m。圧巻の高さです。
ツリーの足元には根鉢を隠すように展望台が設置され、有料で上れる仕様になっていました。
ツリーの頂上から放射状に伸びるキラキラしたものはオーナメントで、訪れた人が願いを書いたものを西畠さんが毎週頂上まで命がけで登り、飾りつけます。
眺めていてひとつ気になったのは、樹形。
確かにクリスマスツリーらしい綺麗な円錐形をしていますが、少し下枝が寂しい気がします。
よく見ると剪定してある枝がわりと多く、輸送中に折れた為切ったのかもともと下枝が少なかったのかはわかりませんが、広告のイメージ写真とは大分異なります。
この木だけを見てクリスマスツリーを連想することはできなくはないですが、少し思っていたものと違いました。
飾り立てるオブジェとしての整ったツリーというよりも、生々しい命そのものという印象です。
展望台へは500円で登れます。
木でつくられたベンチが置いてあり、港を一望できます。
このツリーはアスナロという樹種で、ヒノキの仲間なので材木として利用されています。
落ちていた葉を見てみると、中々面白い形をしていますね。
富山県に自生していたので変種のヒノキアスナロの可能性もありますが、どちらにしろ日本固有種の愛すべき樹木です。
横から見るより真下から見上げた方が美しいツリーというのも、中々おもしろいと思います。
西畠さん曰く見るだけでなく木の幹に実際に触れてほしいという思いがあったようなので、真下から見上げることを前提に下枝を透かしているとしたら成程なあと思いましたが深読みでしょうか。
そろそろルミナリエへ向かおうとしたとき、偶然にも西畠さんのトークイベントが行われていたので飛び込み参加することに。
1時間半ほどの時間でしたが、様々な裏話やこの企画にかける熱い思いを聞くことができました。
この会場のベンチや丸太イスもアスナロ材で、能登の材木屋さんがなにか協力したいと名乗り出て、寄贈してくれたものだそう。
同じ木でも家具や紙に加工されれば何も言われないが、生木だと批判を浴びる。
この企画を肯定するも否定するも良いが、ただ我武者羅に人々の植物や生命に対する思いを突き動かしたかった。
そんな熱い思いが伝わってくるトークイベントでした。
ツリーがクリスマスの後どうなるかはまだ詳しく決まっていないそうですが、一部は神戸の生田神社の鳥居に使われる予定があるそうです。
この企画が伝えたかったことを考える
私は庭師なので、木を切ります。
基本的には片方をより活かすためにもう片方を切るという判断を下しますが、時には邪魔だからと全て伐採してしまうこともあります。
また食事では様々な動物や植物の命を頂いていますし、どんな理由であれ日常的に命を奪っていることに変わりありません。
けどそれは生物として当たり前の行為。当たり前すぎてもはや何も感じなくなってしまっている。自分の手を汚さずに享受できるのが当たり前の時代ですしね。
ですが今回のツリーはそんな当たり前を打破するべくやってきました。
なにせ計画も木の大きさも全てが前代未聞。規格外です。
根鉢を付けた生きたままの状態というのもポイントで、そこには圧倒的な迫力でそびえる「生」と、ふいに垣間見える「死」が去来している。
死に直面すると生を強く意識するとは言いますが、あまりにもリアルな生に出くわすと死を意識してしまうものだと今回実感しました。
もし根鉢のない伐採した状態だったらこんなに話題になることはなかったかもしれませんね。
言わずもがな、生と死は表裏一体です。
私たちは普段あまり強く生きていることを実感しませんが、それは近年の風潮が死を避け続けてきたことに起因するのかもしれません。
戦争はなくなり、死に場所は病院に追いやられ、葬式は葬列が亡くなり今や葬祭業者の虚礼染みたものに委ねられています。
そんなリアルな生や死が実感しづらい世界でいっそう輝くいのちの樹。
昨今はやたらと健康ブームが唱えられていますが、このアスナロの木からは生命の質を、その在り方を問われているようでなりません。
以上、世界一のクリスマスツリーPROJECTについて語ってきました。
確かにいくつか批判したい点はありますが、これだけ大きな企画なのですから多少のアラは仕方ないと思います。
西畠さんの「人の心に植物を植える」という揺るぎない信念がブレるほどのことじゃないでしょう。
似たような信念を持つものとして、今後の更なる活躍を期待するとともに陰ながら応援していきたいです。
「世界一のクリスマスツリーPROJECT」自体は12月26日まで開催されているので、是非気になった方は足を運んでみてはいかがでしょうか。
もちろん、その後の展開にも期待大ですけどね。
神戸ルミナリエもとっても美しいので合わせておすすめです。
記事・・・飛田亮